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再製作したプリント基板のMicrostrip Lineは50オーム

 4月初旬にできあがってきたププリント基板のマイクロストリップラインのインピーダンスが指定の50Ωではなく、57Ωになっていた件ですが、再度プリント基板メーカーに以下の条件で作り直させたところ、マイクロストリップラインのインピーダンスが50Ωになってできあがってきました。

 その条件とは、
  1. メーカー曰く、プリプレグの厚みは大きく変動しないとの事であったが、接着や熱をかけてのプレスをすることから考えて、厚みはある程度変動すると考えた。そのため、プリプレグの厚み指定は前回と同じ0.2mm。
  2. マイクロストリップラインの幅は、ある程度コントロールされていて、幅の変動はほとんど無視できるとした。
  3. プリプレグの誘電率も、同じメーカーで作るのであれば変わらないと考えて、3.6を採用。
  4. 結局、前回のプリント基板では、製造段階でプリプレグの厚みが変わったと判断。マイクロストリップライン幅を0.4mmから0.5mmに変更した。
 この条件を、アジレントテクノロジー社アバゴテクノロジー社AppCADに入れたときの結果が以下の図です。
AppCad_Result.jpg
 厚みをどうしようか迷ったのですが、とりあえず0.24mmで計算しました。この時の特性インピーダンスは49.91Ωです。試しに0.25mmで計算したら51.17Ωとなり、50Ωに対してはそれほど大きく変わらないので、幅0.5mmで作成依頼をしました。
 
 その結果上がってきたプリント基板に取り付けていたテストクーポンのTDR結果が以下の写真です。
080414_NEW_PCB_TDR.jpg
 エンド部分手前のへこみが気になりますが、ちゃんと50Ωになったテストクーポンができあがってきました。これなら問題ありません。
 再度プリント基板メーカーに確認したところ、前回製作した時と製造方法も材料も、さらに層構成も全く同じとのこと。
 やはり、製造段階でプリプレグの厚みが変化したものと考えざるを得ません。理由が不明なのが残念ですが・・・
 ともあれ、マイクロストリップラインのインピーダンスの問題は片付きました。あとは動作の確認をするのみです。

意外な原因

 昨日発覚したISIですが、その原因は意外なものでした。 

 最初は、トランスミッターからレシーバー間のマイクロストリップラインの問題だと考えていました。というのも、マイクロストリップラインの片方が、L1からL4へ行き、さらにL1に戻るような配線になっていたからです(下図)。
Crossed_MicrostripLine.jpg
 このクロス部分でISIが発生していると思ったのです。ですので、このクロスしているパターンを切り、細い50Ωの同軸ケーブルで直結してもISIは出ています。
 さらに、クロスしていないパターンをマイクロストリップラインを切って、同軸でつないでもやはりISIが出ます。
 
 こうなると全く別の理由が考えられます。トランスミッター側の波形にISIがなくて、レシーバの入力端子でISIがでるとしたら、レシーバICの入力が怪しいです。
 
 そこで、マイクロストリップラインを元に戻し、レシーバICの入力端子をマイクロストリップラインに接続しないようにして、50Ωの終端抵抗をつけるだけにしてみました。その結果が下図。
080409-non-IC.jpg
 すごくきれいです。ISIは全くありません。なんとISIの原因は、レシーバICの入力端子に存在する寄生成分だったのです。
 
 若干言い訳をさせていただくなら、レシーバに使ったICは元々ある特定用途向けのICで、このレシーバとペアになるトランスミッタを前提にしています。しかし今回は、そのトランスミッターではないICを使ったため、このようなことが起きた可能性があります。
 
 もっとも考えられるのは、レシーバの入力端子のキャパシタンス成分です。今回プリント基板を設計するとき、その入力容量を考慮した設計をしたはずなのですが、パターンを再度見直してみると、その設計が甘かったかもしれない、と思っています。
 
 また、本来ペアになるためのトランスミッターを使っていないということもあるでしょう。
 
 いずれにせよ、イレギュラーな使い方をしているわけで、そのレシーバーメーカーに問い合わせる訳には行きません。
 
 今回の回路は、このレシーバ入力にある程度のISIがあったとしても、性能には影響がでない回路にしてあるので、おそらく問題にはならないと思います。
 
 それは今後のデバッグを慎重に行ってゆきたいと思います。

ISIが出てる!

 さて、50Ωラインのインピーダンスが狂っているプリント基板に部品を実装してデバッグを開始しました。

 とりあえず、1.5Gbpsの信号を受け取るバッファアンプの出力を観測してみました。
080408-Out.jpg

 う〜、美しい。きれいなアイパターンです。これなら十分でしょう。続いて、特性インピーダンスが狂っているマイクロストリップラインで、約300ps伝送された後の波形を観測してみました。
080408-Input-NoSolder.jpg
 あれ!これは大変、ISIが出てます。たった300psしか伝送していないのに、こんな歪みが出てしまうのか・・・
 念のため、マイクロストリップラインに半田を盛って、特性インピーダンスを50Ωに近づけてみました。そのときの波形が下図です。
080408-Input-Soldered.jpg 若干ISIが減っているように見えますが、本質的にはISIが出ています。これは困った・・・
明日以降、原因を探って行こうと思います。

57Ωラインを50Ωラインにする

 昨日ご報告した、マイクロストリップラインですが、ちょっと強引な方法で50Ωラインにしてみました。

再度AppCADを使って、プリプレグの厚みが0.25mmと仮定し、比誘電率も3.6のままで50Ωになるための導体厚みを計算してみました。すると導体厚みを0.035mmから0.3mmにすると50Ωになることがわかりました(下図)。

MicroStrip_0_3_thick.jpg
 そこで、テストクーポンの一部に半田を盛って厚みを増し、強引に50Ωにしてしまおう、というわけです。下図では、左の方には銅箔がむき出しになっている部分がありますが、これが本来のテストクーポンです。その右側からSMAコネクタまでのテストクーポンに半田を盛って、導体厚みを厚くしています。
 Soldered_Test_Coupne.jpg
 この状態でTDRを行ってみました。その結果が下図。
 ちょっとわかりづらいかもしれませんが、X印のマーカー部分が、半田を盛った部分で、明らかにインピーダンスが下がり、50Ωに近づいています。これに気をよくして、テストクーポン全体に半田を盛ってみました。なかなか平らに盛るのが大変でしたが、全部に半田を盛った時のTDR結果が下図。
All_Soldered_Best.jpg
 でこぼこしているのは、半田を均一に盛れなかったためで、13cmの長さのテストクーポンに均一の厚みで半田を盛るのは難しいです。むしろ思いっきり厚く盛って、後はヤスリなどで削ればもっと均一な厚みに出来るでしょう。
 
 気になるのは、このマイクロストリップラインに1.5Gbpsの信号を通したらどうなるか、です。アンリツのパルスパターンジェネレータの名機、1608Aから1.5Gbpsの疑似ランダム信号を出力させ、このテストクーポン通過後の波形を観測してみました。
 PRBS1_5G
 この信号を見る限り、ISIも出ていないようですし、アイパターンのアイも十分開いています。ただ、13cmという比較的長い伝送路なので立ち上がりがなまっていて、十分なスピードで、Hレベル、或いはLレベルまで到達していません。これは致し方ないと思います。
 
 というわけで、かなりトリッキーな方法ですが、57Ωラインを50Ωラインにすることが出来ました。さて、今回の基板は作り直しすることは決まっています。でもその時間がもったいないので、マイクロストリップラインに半田を盛る、という技を使ってデバッグしようとしている回路に問題が起きないか、検証してゆきたいと思います。
 

FR4基板上に作られたマイクロストリップラインのインピーダンス

 これからデバッグが始まるプリント基板が、土曜日に到着しました。高速シリアル信号(1.5Gbps)が通るので、基板上のマイクロストリップラインの特性インピーダンスが非常に重要です。特性インピーダンスが、信号源インピーダンス、もしくは終端抵抗(通常50Ω)に合っていないと、波形歪みなど、シグナルインテグリティを損なう結果になります。

  早々基板上に作ってあったテストクーポンを使い、TDR法を使ってインピーダンスを測定してみました。結果はなんと、「57Ω」。50Ωラインとして作成したのに、10%以上の誤差が出ています。ちょっとこれは問題です。
Actual_Line_TDR.jpg
 マイクロストリップラインの特性インピーダンス計算は、アジレントテクノロジー社アバゴテクノロジー社が無償配布している、AppCADというソフトを使っています。
 
 その時の条件は、以下の通りです。
 
誘電率:3.6
基板厚み(4層基板なので、L1・L2間のプリプレグの厚み):0.2mm
銅箔厚み:35ミクロン
 
 誘電率が低いと思われる方も多いと思いますが、昨年も同じメーカーのプリント基板を使って、同じように50Ωラインを作ったのですが、その時は上記の誘電率で全く問題ありませんでした。
 
 で、AppCADで行った計算結果は以下の通り。

MicroStripLine50Ohm.jpg
 この結果からマイクロストリップラインの幅は、0.4mmとなり、この値をメーカーに伝えてプリント基板を設計してもらったわけです。
 同じメーカーにもかかわらず、特性インピーダンスがこれほど大きくずれた理由として考えられるのは、プリプレグの厚みがコントロールされていなかった可能性があります。
 
 57Ωになる時のプリプレグの厚みをAppCADで計算してみると、0.25mmとなりました(下図)。 
 
Calculated_57_ohm.jpg
 実は今回の基板、プリント基板メーカーがちょっとしたミスをしてしまい、基板を作り直してもらうことになっています。その時はプリプレグの厚みのコントロールを厳密にやってもらうようお願いしようと思っています。
 
 再作成してもらう基板上のマイクロストリップラインのインピーダンスが、50Ωになることを祈っておきましょう。
 
 この基板を使うかどうか、は明日以降のブログをお楽しみに!